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OSAKA SEIKEI PRESS

経営学部 教授/ スポーツイノベーション研究所 研究員植田 真司

関西の域内人口は約 2,000 万人、域内総生産(GRP)は約 8,110 億ドルで、オランダ(世界17位)に次ぐ経済規模に匹敵するなど、主要国一国に並ぶ人口?経済規模を有しています。 その域内経済の中で、スポーツ産業のもつ可能性について経営学部 植田教授にお話をお伺いしました。

スポーツ経済学の研究を始めるきっかけ

工学部の応用物理学科で量子力学や物理計測を学び、スポーツ用品メーカー ミズノの研究開発部門で、ゴルフクラブの開発を担当しました。モノづくりですね。また会社経営にも興味があり、ちょうど総合企画部への社内公募があり、小論文と面接をへて異動しました。そこで新規事業の立ち上げからマーケティングまで従事しました。その後同社を退職し大学院に入り経済学を学びました。もともと私自身も陸上競技をやっていましたし、関西にスポーツメーカーが集積していること、スポーツが世の中を良くすると考えていましたので、スポーツで地域の活性化や社会問題の解決ができると思ったことがスポーツ経済学を専門に研究するきっかけです。

何のためのスポーツか?

スポーツ経済学というと、「スポーツチームが利益を出すための球団経営」「スポーツイベントがもたらす経済波及効果」という視点もありますが、私は、「地域を活性化させるためのスポーツ」つまり健康増進、環境問題、ソーシャルビジネスなど総合的な視点で捉えています。 スポーツの語源は「仕事から離れる」「どこかへ行く」など、気分転換を意味したラテン語です。競争するだけがスポーツではなく、楽しみながらスポーツをすることで、新たな産業、そして精神的な満足感、QOLの向上などが得られます。 スポーツの役割については、2013年に大学の研究紀要「スポーツの価値と役割」に詳しく書いています。スポーツを何とかしたいではなく、スポーツを通じて地域やみんなが幸せになるために何かできると考えています。

特にプロスポーツチームは発信力が強く、皆さん“耳を傾けてくれる”という点が強みです。行政や大学からの情報発信に加えて関西のプロチームともいっしょに関西地域の活性化に少しでも貢献できれば嬉しいです。

スポーツから派生して経済に影響を与えている身近な例としてどのようなものがありますか?

アスリート向けに開発した高機能製品が、他の業界の商品にまで応用されている例がいくつかあります。 登山者向けの発熱繊維のインナーやストレッチ素材を使ったビジネススーツなどスポーツメーカーに限らず各社が発売していますし、ランニングシューズのクッション性や軽量性を取り入れたビジネスシューズ、速乾性や保温性を備えたインナー、最近は農業事業者、漁業事業者向けの作業着など、スポーツ以外のカテゴリーに応用されています。 食品で言えば、アスリートが競技中の水分補給で使うスポーツドリンクを熱中症対策で飲んだり、運動後に摂取する栄養素に特化したプロテインやゼリーなどを健康状態に合わせて摂取したりと、それらは一般の方を対象としたマーケットに拡大させている例です。

スポーツ産業の持つポテンシャル

スタジアムの建設であれば建設業、スポーツの報道に関しては情報通信業、オリンピックなど大きなイベントになると観光業、スポンサービジネスを扱う広告代理店などスポーツを核とした幅広い業種が関係してきます。一見スポーツとは縁のない産業でも、自社のビジネスチャンスが生まれるかもしれません。

経済的な側面だけではなく、ソフト面にもすそ野が広いことがスポーツの持つ特徴です。企業経営者がチームビルディング、チームワーク、ピークパフォーマンスなどスポーツの考え方を自社に応用している例もあります。また健康維持?増進の目的で体を動かすことの重要性は、論を待ちません。健康経営により、病気になる人が減れば、その人のQOLも企業の業績も向上しますし、年々増大する医療費負担も減り財政にも好インパクトを与えます。そのすそ野は多岐にわたります。

関西の産業の可能性 ~ミズノ、アシックス、デサントなど多くのスポーツ用品メーカーが集積~

実は、関西にはミズノ、アシックス、デサントなど多くのスポーツ用品メーカーが集積しています。それはもともと関西に、スポーツ用品生産に関連する産業が発展していたことが考えられます。河内木綿などから繊維産業が栄え、大阪は東洋のマンチェスターと言われ、スポーツウエアの製造につながりました。神戸には外国人が多く住んでいたことにより、日本に無かった靴づくりが根付き、また奈良には革製品の技術があり、それが野球グラブやスキー靴づくりに発展しました。

またスポーツの大会も、高校野球の全国大会が兵庫県 西宮市の甲子園球場、高校ラグビーでは大阪府 東大阪市の花園ラグビー場で行われそれぞれのスポーツでは“聖地”とまで言われています。ちなみに、第1回の大会は、野球もラグビーも豊中市の豊中運動場で行われました。プロ野球では、いくつかの関西の鉄道事業者(近鉄、南海、阪急、阪神)が球団経営に乗り出しました。それらの歴史的な背景があることから、スポーツ産業だけでなく、さまざまな産業の助け合いがあり、関西のスポーツ産業が発展したと考えています。

現在、関西のスポーツ産業集積の利点を生かそうという動きが産業界にありますか?

行政をはじめ商工会議所などが主導で研究会や情報発信などを進めています。
大阪商工会議所中心に、神戸商工会議所?京都商工会議所は「スポーツハブKANSAI」というプラットフォームをつくり、スポーツを核に様々な産業の融合による新たなビジネス創出を推進すため、例会やマッチングを支援しています。
大阪市は、人工島(舞洲)を拠点に活動する、大阪エヴェッサ、オリックス?バファローズ、セレッソ大阪が中心となり、民間企業と連携し、スポーツの振興及びスポーツ産業の発展を目指し「舞洲プロジェクト」を展開しています。
大阪府は、「大阪の再生?成長に向けた新戦略」として、「成長の可能性」、「経済効果の大きさ」、「大阪の強みを活かすもの」の視点から、今後取り組むべき分野にスポーツを取り上げています。
近畿経済産業局も、スポーツ市場の活性化に向け、関連する企業や自治体、スポーツチームにヒアリングを実施し、スポーツが地域や周辺産業にもたらす効果や中小企業のスポーツへの関わり方など事例を紹介しています。
幅広い業種の方に関心を持っていただき、再びスポーツを通じた関西経済の活性化に期待しています。

<参考外部サイト>
スポーツハブKANSAI(商工会議所)
舞洲プロジェクト(大阪市)
大阪の再生?成長に向けた新戦略(大阪府)
近畿経済産業局広報ページ

2025大阪?関西万博に関連して、「スポーツ×経済」の切り口での提言などありますか?

2025年に予定されている夢洲(ゆめしま)での大阪?関西万博は、”Society 5.0の実現”などの目標を掲げています。いわば"ハイテク"です。私案ですが、1970年に吹田市で開催された大阪万博の跡地(万博記念公園)で“ローテク”な、人間にとって根源的に重要な健康(運動、栄養、休養?睡眠)や環境をテーマに、「もう一つの博覧会」を開催、その内容や解決策は高校生?大学生を中心にアイデアを募り、世界に情報発信してはと考えています。昭和生まれより、平成生まれの方が、環境のことを真剣に考えているように思います。行政や企業経営者の方にもお話ししていますが、おもしろいアイデアだと言っていただいています。地球の環境も考慮した「四方良しの社会」が実現できればと考えています。

PROFILE

<経歴>
2011年 大阪成蹊大学 教授
2003年 大阪府立大学大学院 経済学研究科博士前期課程修了
2000年 同社を退社
1982年 大阪市立大学工学部卒、ミズノ入社

<主な著書>
「スポーツSDGs概論」(共著)学術研究出版 2020年
「スポーツマンシップ論」(共著)晃洋書房 2019年
「よくわかるスポーツマーケティング」(共著)ミネルバ書房 2017年

<社会貢献活動>
大阪市 舞洲スポーツ振興事業推進協議会 顧問 2020年~
大阪商工会議所 スポーツ産業振興委員会 副会長 2019年~
大阪商工会議所 スポーツハブKANSAI スーパーバイザー 2018年~ 
第2次大阪府スポーツ推進計画策定部会 専門委員 2017年
関西学生陸上競技連盟 評議員 2014年~
大阪販売士(リテールマーケティング)協会 理事 2010年~ 

<メディア取材等>
「スポーツ関西成長の軸に 用具や食品???ビジネス創出」取材協力 日本経済新聞 2022年7月6日
「関西産業 スポーツ隆盛支え」取材協力 産経新聞 2021年7月27日掲載
「大学スポーツ 自立へ攻勢」取材協力 読売新聞 夕刊 2021年7月21日掲載
「運動用品 DXに商機」取材協力 読売新聞 2021年7月7日掲載
「スポーツで地方創生」取材協力 毎日新聞 2020年2月7日 金曜経済面掲載